東京創元社
田中芳樹 監修 / らいとすたっふ 編
2018年3月23日初版発行 文庫判・434頁 本体1,100円+税
銀河英雄伝説の最初の版が発行されたのは1982年、
5年後の1987年に本編全10巻で完結した。
もう30年以上も前のことなのだ。
私が初めて「銀英伝」に触れたのは、衛星放送で
連続放送されたOVA(オリジナルビデオアニメーション)で
その後に小説を読んだ。それも30年ちかく前になる。
2018年には、新たに作画したOVAが放送されているから、
いまでも間違いなく人気作品である。
SF作品で未来の軍隊がメインに来ることは
なくもないが、艦隊戦が描かれることは少ない。
さらには具体的な科学技術がある程度のリアリティをもって
描かれているから、著者が過去にそういった分野で
勉強したり働いていたりしたのかと思いきやそうでもなく、
ご当人はその点は自信がなくて比較的逃げた、と
巻末の対談に書いてあったのはびっくりした。
銀英伝のOVAは、膨大な登場人物の差異を際立たせるため
可能な限り一人一役で声優を割り振った結果、
「銀河声優伝説」と呼ばれるほど多数の声優を配役した。
ある声優は声優協会の会合でもあるのかと思ったという。
それほどまでの人物造形と関係性の深さ、多彩さ、具体性が
この物語の魅力を高めているのは周知のことだが、
本書を読むと設定の細かさにあらためて驚かされる。
本編では戦死するときに名前が出て、
あとは一言二言の台詞があるだけの、
苗字しか出てこない人物にもちゃんと設定がある。
この辞典を読んでいると、主要な登場人物の魅力も
薄れはしないが、ちょっとだけ登場した人物の
描かれ方を確認したくて、もういちど文庫を開きたくなる。
上記の通り、著者は科学技術などは曖昧だと
自覚していたそうだが、それでも手を抜かずに勉強した
とも言っている。
感心を通り越して呆れそうになるほど深掘りされた
人物設定、人物の心理描写という大きな武器とともに、
こういう細密さこそが名作の条件なのかと再確認した。