阿久悠と松本隆

朝日新聞出版
中川右介
2017年11月30日 第1刷発行 新書判・376頁 本体900円+税

1976年から3年連続で、阿久悠の作詞した歌が
日本レコード大賞を受賞した。
歌謡曲の世界において、
1970年代後半は間違いなく阿久悠の時代だった。

1981年にレコード大賞を取ったのは
松本隆作詞の「ルビーの指輪」だった。
それ以降、阿久の作詞した曲は売れ行きが下降線を辿り、
はっきりと世代交代した。

後世から振り返って見ればそういうことらしい。
本書で著者は、80年代には「時代」がなくなって
時代を象徴する歌も消えた、と書く。

90年代はミリオンセラーが連発されて、
大衆歌、ポピュラーソングの全盛期だったんじゃないか、
歌の時代だったんじゃないか、と思っていたが違うようである。

100万枚売れても、その曲を知っているのは500万人ぐらい、
というのが90年代の歌だ。
(著者によれば)1981年まで存在した「時代」を
象徴する曲は、売上げは数十万枚でも日本中の人が知っていた。

他に娯楽がなかったから皆が聞いていただけだ、と
斬って捨てる向きもあろうが、そうとばかりも言えない。

ふいにテレビやラジオで、90年代のミリオンセラーソングが
流れると、たいてい懐かしい!と思う。
懐かしいのは、一過性のものだったからだろう。
ずっと心に残っているものは懐かしくは感じない。

そのふたりの活躍の重なるたった数年間に絞り込んで
描く本書のほうが、長い期間を俯瞰した下手な年代史より
はっきりと時代の移り変わりがわかるのは、
ふたりが時代に「乗った」のではなく、
時代を「作った」から、かもしれない。