立東舎
稲垣史生
2016年10月20日 初版発行 A6判・256頁 本体800円+税
殿様とか代官とか江戸期の偉い人は、
テレビの時代劇でとかく悪者として描かれた。
殿様というのはおそらく大名のことか、
大身旗本(禄高も何千石と大きい徳川家の家来)
であろう。
お代官様は天領(徳川家の領地)の総督である。
彼らの日常の、衣食住に関わる質と量を
現代の我々は具体的によく知らない。
彼らがどういう生活をしていたかを知らぬまま、
イメージだけで悪役にしたわけである。
金糸銀糸に糊のきいた豪奢な服を着て
小判の山を前に酒を飲みつつ悪だくみ、
「お主もワルよのう」である。
今にして思えば「あんな奴いるか」というところだ。
ああいうわかりやすい、さも憎さげな悪役の姿を
想像だけでイチから作ったと思えば
テレビ番組の制作者もむしろ大したものかもしれない。
そうした誤解とともに流布してきた
「殿様」の生活について、という部分と、
贅沢の象徴のような「大名の“風流”」を、
本書ではできるだけ実体に近づくべく考証している。
昭和の時代には、「祖父母が幕末を生きていて
教科書に載っている出来事を体験した人の孫」
みたいな人が、まだご存命でお元気だったりした。
彦根井伊氏の直系子孫は井伊市長だったし、
有名なところでは元国会議員の細川護煕氏も
戦国大名細川氏の末裔である。
本書も2016年発行ではあるが、書かれている内容は
昭和62年のもので、著者・稲垣氏も平成8年に物故している。
30年ほども前に取材したりしているだけに、
考証の内容はまだ活き活きとして想像がしやすい。
講談風の語り口調が読みづらいところも時々出てくるが、
世代や性別に拘らず中近世日本史を楽しむ感覚が
広まってきた最近だからこそ、こういう考証にも
より面白みが感じやすくなっているとおもう。