平行植物

工作舎
レオ・レオーニ 著 / 宮本淳 訳
2011年1月新装版第一刷 A5判変型・304頁 本体2,200円+税

へいこうしょくぶつ【平行植物】
時空のあわいに棲み、われらの知覚を退ける植物群。

多くは人が触れると霧のように消え、
写真に撮っても姿が写らない。
そのため、学術的に記録を残すことがきわめて難しいが、
悪臭を放ったり他の植物(農産物など)を枯らしたり、
食中毒の被害報告など口伝えの事例ばかりが残されてきた、
不思議な植物。

このような植物をご存じだろうか。
種を割ってしまうようだが、これら植物の存在は
作者レオ・レオーニによる創作である。

ひとつふたつの植物を描いたのではなく、
本書収録の主要な植物だけでも50種類以上、
それぞれに伝承などがあり、多くの研究者もいて論文もあり、
「近年は科学技術の発達によって新たな観察・分析手法が
模索され、学問の進展が期待されている」状況とか、
日本のカメラメーカー「ダゴン」によって記録技術の
研究も進んでいる、といった設定もある。

その全てが、作者の創作したフィクションである。
詳細で具体的、架空の研究者のエピソード等まで
よくできていて、読んでいるとフィクションであることを
いつのまにか忘れている。

この読み応え、どこかで経験が、と思ったら
遠野物語に近い。
あちらは創作ではないが、妖怪やマヨヒガ、神隠しなど
虚実定かでない地域の伝承を丹念に拾い、
ときに分析も加えて克明に記すスタイルと
なんだか居心地の悪い読後感が通底している。

それこそ平行植物のように、頼りなく手応えのない
情報や設定を、これだけ手応えのある文章として
書き連ねるのも、異色とは言え間違いなく文学であろう。

ちなみに、レオ・レオーニの名に聞き覚えのある向きも
多いと思うが、有名な絵本『スイミー』や
『あおくんときいろちゃん』の作者でもある。
作風にギャップを感じつつ、底に流れる
ひんやりしたものに納得する思いもある。