風待茶房 松本隆対談集 1971-2004/2005-2015

立東舎
松本隆
2017年1月10日第1版発行 A5判・384頁 本体各2,000円+税

細野晴臣、大滝詠一、松本隆、鈴木茂の4人による
「はっぴいえんど」というロックバンドは、
たった4年活動して解散した。

メンバー全員がその後、日本の音楽の世界で
すごい立場になったために、
いろいろな形で伝説が語られた。

基本的に、日本のロックの草分けと見なされている。
その見方に異論もあるようだし、「日本語ロック論争」
というのもあるようだ。
その辺はWikipediaを眺めるだけでも文字数が多く、
思い入れのある人にとっては重いことのようである。
そもそもWikipediaの記述自体も、著者の考えに基づく
偏りが強く感じられる書き方になっている。

正直に言えば、そのあたりの経緯や事実は、
個人的にはどうでもいい。
なにしろ生まれる前の話である。

そもそも音楽や小説などの創作物に対して、
作者の生い立ちや生きた過程、制作の裏舞台、
といったようなドキュメンタリー的な話を
作品そのものと強く結びつけて納得しようとする
受け取り方は、あまり興味がない。

話題の当事者や関係者がまだ存命だったり、
その当事者の子、ぐらいの世代の人が
元気だったりするうちは、関係各所の感情や事情が
いろいろと絡んできて煩くなるのも一因かも知れない。

とか言いながら、この対談集の、特にはっぴいえんどの
元メンバーとの話や、同時代に音楽や芸能の世界にいた
太田裕美だの佐野史郎だの水谷豊だの、
そういう人との話は読んでいて面白かった。

いま大御所になっている人が駆け出しだったとか、
中学生だった、という頃の話が、
当人も記憶が曖昧だったり、当事者同士で
エピソードが食い違っていたりするあたりが、
生の人間の記憶、という感じがして良い。

その記憶違いを他の文献資料と照らし合わせて
考証する必要はないのだ。
誰しも、30年も40年も前の話を正確には覚えていない。
忘れたい話もあるかも知れないが、
それも含めてその人そのものである。

松本隆とは世代がかなり違う、私と同世代の著名人とも
対談している。
そういうときも、近年蛇蝎の如く忌み嫌われる
「近頃の若いもんは」「俺が若い頃は…(武勇伝が続く)」
のテイストに陥らずに、若人にはこう見えているけど
「こんな事があったんだよ」と気軽に話すのみである。

帯に書いてあるとおり、茶飲み話なのが心地よい。