野の生き物語 いわて野生の生態スケッチ

岩手日報社
関山房兵
2015年7月30日発行 B5判・308頁 本体1,800円+税

岩手県の県鳥はキジである。
岡山もキジを県鳥と定めていて、日本の国鳥でもある。
岩手のひとでも、このことを知らない人は意外といる。
国鳥というのは法制されたものではないし、仕方ない。

国のシンボルとされる鳥を狩猟の対象とするのは
日本だけだと知ったときには、けっこう愕然とした。

私が子供の頃に住んでいた家は
新しく拓かれ始めた住宅地にあって、
南と西にさして広くもない田んぼがあった。

その田んぼには、年がら年じゅうキジがいた。
秋になって稲が刈られた後もしばしばいた。
天敵の猛禽が少ない地域だったからかも知れない。

稲のある時期はその隙間に、注意深く物音を立てぬように
隠密行動のように動くキジを見つけるときがある。
そういうときは自分も首をすくめて息を詰めて、
見えなくなるまでずっと見つめていた。

ついでに言うと、その田んぼでは夏にホタルが見られた。
家の居間の窓から、ごく当たり前に、たゆたう光が見えた。
分布からすればゲンジボタルだろうが、
よく調べもしなかった。惜しいことをした。

その経験がとても贅沢なことだったのだ、と知るのは、
それから二十年近く経ってからだ。

同じ市の外れの温泉地に住む祖母の家でも、
山あいにあることもあってキジをよく見たが、
昔はトビやタカに追われて、家の窓ガラスを突き破り
飛び込んできたらしい。
その時点で生きてはいないので、
供養として食べたそうだ。
私は一度も口にしたことはない。

爬虫類と両生類を除けば、全般的に動物は好きで、
衛星放送の動物・自然系のドキュメンタリーは
何時間でも見ていられるほうだ。
図鑑も、子供の頃からよく読んでいた。

本書が、上記の動物にまつわる書籍や番組と違うのは、
岩手に住む著者が岩手の動物を観察し、追う過程を、
とても身近なエッセイとして読めるところだ。
分類や分布といったデータだけでは伝わらない、
文字通り生態のスケッチである。

好きで見るわりには知識としてまったく積層せず、
野山でみかけた動物の判別もおぼつかない私でも、
キジだけはけっこうすばやく見つけるのは、
先述のような思い出と結びついているからだろう。

身近な動物は、なんとなく認識して忘れさってしまうが、
すべてに名前がある。
名前がなければそれは新種だから、えらいことである。

それぞれの名を知ると、認識が急に変わる。
行動のひとつひとつが気になって、他の動物との差が
なんか気になってしまって、ネットや図鑑で
調べ始める。愛着が湧く、というやつである。

その第一歩に、これほど相応しい本は他にない。