ペンギンが教えてくれた物理のはなし

河出書房新社
渡辺佑基 著
2014年4月30日発行 B6判・256頁 本体1,400円+税

バイカルアザラシという動物がいる。
世界で唯一、淡水だけに棲息するアザラシである。

顔はなんというか、ちょっとシリアスな感じがして
可愛いとも言いがたいが、水中の姿が
「まんまる」としか言いようのない丸さで、憎めない。
私の好きな動物の五指に入るやつである。

体型通りに脂肪が多く、体脂肪率が50%近い。
そのわりに潜水が得意なのだという。

脂肪より筋肉のほうが比重が大きく水に沈むので、
体脂肪率の高い動物が潜水が得意というのは不思議である。
ふとっちょなのは寒いシベリアに棲んでいるからだ、
と思っていたが、理由はそれだけではなかった。

その理由を著者は、バイオロギングを使って証明した。

バイオロギングという言葉を、私は知らなかった。
小さな測位機器を動物に取り付け、動物の移動を記録する。
デジタル技術の飛躍的な進化で機器の小型化も進み、
動物への負荷を著しく減らすことができるようになって、
急速に広まった手法だそうだ。

これによって、双眼鏡やビデオカメラで観察するという
肉眼の及ぶ範囲から離れた動物の行動が、
これまでとは比較にならない量で把握できるようになった。

ここだけを説明されても面白くないのはわかっている。
ここはぜひ本書を読んでもらいたい。

忽然として明らかになった動物の行動、その理由の推定、
そこに関わるのは、かなり単純な物理の法則。
並のミステリーよりよほどカタルシスがある。

動物についてこれまで見聞きしてきたことが、
実はけっこう的を外していたり、
ほんの一部しか見えていなかったことがわかり、
すっきりと腑に落ちるのである。

アウトドアにも、異なる食文化にもわりと弱い私だが、
世界中を飛び回る研究の仕事に対する憧れが、
ひさびさに沸々とわき上がってきた一冊である。