Quiet Corner 心を静める音楽集

シンコー・ミュージック・エンターテイメント
山本勇樹 監修
2014年12月12日初版発行 A5判変形・176頁 本体1,700円+税

HMVのフリーペーパー「Quiet Corner」を書籍化した本書、
はじめて読んだときは膝を叩いた。

音楽評論とか紹介というのは大抵、
ジャンルか時代かなにかのカテゴライズがしてある。

だが自分の音楽の好み、遍歴を振り返ると、
そんなにくっきりとジャンルだけで選んできたわけではない。
初めて買ったCDはチャゲ&飛鳥で今でも好きだし、
初めて買った洋楽CDは「ボディ・ガード」のサントラだった。
やはり今でも、ホイットニー・ヒューストンは好きである。

それは本棚も同じで、時代小説も推理小説も好きだが
時代小説なら誰のでも読む、というものでもなかった。
人から見ても分類しづらい嗜好だったはずで、今も変わらない。

音楽でも本でも映画でも、ジャンルが一緒なら誰の作品でもよく
ジャンルが違えば誰の作品でも興味がない、という
選び方は、あまりしないのではないか。

本書は、章ごとにタイトルは付いていてもそれは
何かを縛るためのものではけっしてなく、
たとえば「Intimate Dialogue(親密な会話)」という章は
チャーリー・ヘイデンの訃報をきっかけにして、
様々な曲、CDを紹介していく。
中にはオレンジ・ペコーの藤本一馬のアルバムも紹介されていて、
だからたぶん、ヘイデンと直接関連があるわけではない。

執筆者の感覚の中で、同じ空気感、世界観、
あるいは同じような感情や時間の中で聴いていたい曲が、
とても個人的な感性で並んでいるのだと思う。
そういうセレクトを見るのは、とても愉しい。

他人の本棚を眺めるのと同じで、見られる側になると
嫌だったりもして我ながら勝手なものだとも思うのだが、
それは本や曲のセレクトというのは、言葉を並べるよりも
その人自身をより鮮明に顕してしまう、
なにか剥き出しの心が形になったようなものだからかもしれない。

多弁ではなく、タイトル通り“静かな一角”で、
目を瞑って黙って聴いていたい曲ばかり紹介されているのだろう。
歳と共に、そういう曲を求める気持ちが強くなっている。
この1冊だけで、残りの一生分の静かな曲は間に合いそうだ。
書肆みず盛りも、そういう本屋でありたいのである。