八坂書房
五十嵐謙吉
2000年2月25日初版発行 四六判・296頁 本体1,200円+税
※バーゲンブックです
歳時記のことは、俳句の季語辞典のようなものと思い込んでいた。
本来は、四季の事物や行事などを網羅したものを指す
中国古来の用語だそうで、百科事典のイメージが近い。
日本最古の歳時記は貝原益軒の甥で養子の好古による
『日本歳時記』だそうなので江戸時代初期、350年ほど前。
挿絵もあり、和歌や漢詩、食用や薬効についても
載っていたというから、本当に家庭用百科事典の趣である。
科学系の、各分野に分かれて直接的に書かれた百科、図鑑も
面白いのはもちろんなのだが、こういう歳時記ほど
読み飽きないものはないと思う。
季節ごとに章が立ててあり、日々の生活に関係する物や事について、
意外な分野にまで視野を広げ関連付けて解説する。
たとえば「ツバメ」を読んでみても、日本書紀の記述と
大伴家持の歌に始まり、渡りや巣作りや子育ての実態、
ツバメの種類と、文芸・科学の各方面から解説がなされて、
しまいには旧約聖書やギリシア神話、司馬遷の史記にまで触れる。
空を飛ぶ姿や、運が良ければ自宅の軒裏で巣をつくり
子育てする姿を見かけて身近な存在のつもりでも、
実際にはそれは季節的にも地理的にもごく一部なのである。
わかってはいてもつい忘れてしまいがちな
「世界の広さ、豊かさ」というものを、
こうやってときどき思い出すのは、心の栄養になりそうである。