ベレ出版
津村耕司
2017年1月25日 初版発行 四六判・192頁 本体1,500円+税

陽が沈んで夜になると、あたりは暗くなる。
当たり前のことである。
これに疑問を持つ人は少ない。
しかし疑問を持った人々がいる。
そのうちの有名な一人、18~19世紀ドイツの医師で
アマチュア天文学者でもあった
ヴィルヘルム・オルバースの名を取って、
「オルバースのパラドックス」と呼ばれる逆説がある。
『もし宇宙が無限に広く、恒星の分布が一様であるならば
空は全体が星の光で埋め尽くされて光り輝いているはず』
という考えである。
設問がわかりづらいため、しばしば例えが用いられる。
あなたは森の真ん中に立っている。
この森がどこまでも広がっているとしたら、
あなたは森の外を見ることができるだろうか?
という例えである。
自分のすぐそばにある木の向こうには、
ちょっと離れたところの木が見える。
すぐそばの木とちょっと離れた木の間には、
もうちょっと遠いところにある木も見える。
こうやって、木と木の間にさらに遠くの木が見えれば、
視界が遠近様々な場所の木に埋め尽くされて、
森の外は見えなくなる。
そのことはとても想像しやすい。
この木が星であるとすれば、宇宙の遠近様々な場所の
星の光が目に入って、夜空は明るいはずであろう、
というのが「オルバースのパラドックス」の趣旨。
……なんでそこに疑問を持った?というのが
私の最初の疑問である。
子どもの疑問のように、答えは当たり前のことのようだが
実際に答えるとなるととても難しい。
この答えを出すために宇宙や星について考えていくことが、
宇宙がどのように生まれて、今どのような姿であるのか、
とう真理とつながって非常に良い設問だったために、
多くの人がパラドックスの解決に取り組んだ。
実は、このパラドックス、現在は解決している。
だがその結論を理解するためには、
天文学や物理理論などの前提知識を多く必要とし、
また解説も本当にたくさん発表されていながら
理論の一部に誤解や混乱を伴っているために、
きちんと説明がなされて普及しているとは言えないらしい。
宇宙の話というのは、突き詰めていくと哲学のようにもなる。
惑星や恒星という巨大な物質の話をしていたかと思えば
その理解のために素粒子を理解する必要があったり、
当然数学的な理解力も必要で、ときどき気が遠くなる。
超ひも理論とか、何度読み直してもまったくわからない。
わけわかめ、とか言いたくなるぐらいわからない。
なぜこうまでわかりづらいのかが興味深い。
多くの人にとって“宇宙は目に見える範囲”
つまり“夜空のこと”ぐらいにしか感じられない。
ところが、実際には肉眼では見えない部分が多すぎて
脳内の理論だけで理解していかなくてはいけない世界が
膨大に広がっている事実を
いきなり突きつけられるところに難しさがあるのではないか。
「綺麗な星空だなー」
「あの光は何千年も前にあの星を出発して
ようやくいま私たちの目に届いたんだよ」
「えぇー、ロマンティックー」
と思っていたら
「すべての物質は、陽子や中性子よりも小さな、震動する紐で
できているのである」
とくれば、すんなりわかるわけがない。
やはり、目に見える、手応えのある範囲から
説明してほしい。
その点で本書は、とてもわかりやすい。
オルバースのパラドックスを導入部に使いながら、
光とは何か、オーロラについて、天文観測の方法や実際など
私たちにも目に見える範囲から説明を重ねて、
ブラックホールやパラドックスについての説明に行き着く。
簡単に説明できるものではないが、
子どもの質問に詰まらない程度の思考能力が鍛えられる。
答えを知っていることよりも、
考え方を知っていることのほうがずっと力強いのだ、
ということを、宇宙からは教えられる気がする。
