星に願いを―宇宙といわての年代記 展示解説書

岩手県立博物館 
2025年6月14日 A4判・48頁 本体700円税込み 

2025年6月14日から8月17日まで、
岩手県立博物館で開催された企画展
『星に願いを―宇宙(そら)といわての年代記』の図録。
展示解説書と銘打っているとおり、展示物の
詳細な解説が載っている。

全48ページと大部の書籍ではないが、
びっくりする内容の濃さである。

本展示は『宇宙と人との関わりという視点から
その歴史をたどります。』というテーマ付けで、
岩手県内の歴史的事象・遺物と、
星空・天文学との関連を結びつけて紹介するもの。

たとえば、妙見菩薩という神さまがいる。
その信仰は東日本から北日本にかけて多く見られ、
もともと平将門伝説と関係が深かった。

妙見菩薩は、北極星あるいは北斗七星の神格化である。
北斗七星の中には“破軍星”と呼ばれたアルカイドが入っており、
その星を背にして戦うと必ず勝つと信じられたため、
北斗七星の神である妙見菩薩が軍神として崇敬された。

そのこととは別だったのかも知れないが、
8世紀後半頃に東北一円に勢威のあった蝦夷(えみし)を
征夷大将軍・坂上田村麻呂率いる朝廷軍が討伐した。
“北の辺境で荒ぶる者どもを平らげた”ということから、
北方の守り神であり軍神でもある毘沙門天と、
田村麻呂は同一視されていき、神格化されてゆく。

田村麻呂はおそらく足を踏み入れていなかったであろう
青森・秋田両県域に、田村麻呂創建と伝わる妙見宮が
散見されるのは、“北”と“軍神”が重なった結果だろうか。
岩手にはあまりそういう事例がない、ということも、
直接討伐された地域としてはあまり残りづらかったのか、
と想像されたりもして、切なくもおもしろい。

中世の支配者層は武家・武士など武力集団であることが
多かったため、一族の守り神も縁起を担いでか
軍神・武神であることが多い。
現在の千葉県千葉市あたりを本貫とした千葉氏もそのひとつで、
現・九戸村あたりの豪族・九戸氏と同じ九曜紋を使う。
その千葉氏、現在でもその名字の方は岩手には多いが、
なんと県内で4番目に多い名字なのだそう。

こうして読み解いていくと、とりとめなく感じかねない
さまざまな事柄が、実は折り重なり一本の糸になって
現在につながってきているのではないか、と
気の遠くなるような気分になる。

中世の話ばかりでなく、古代の星座石とか、
伊能忠敬が残した足跡とか、水沢にあった緯度観測所の
木村榮所長が発見したZ項のことなど、
長く人々が星を見て思い、観測研究して考えたことの
壮大さ・遼遠さが、最初から最後までびっしり詰まった
充実した解説書である。

水沢に行くと、ZホールをはじめZアリーナ、Zバスなど
Z項にちなんだ名称がたくさんある。
木村榮記念館や奥州宇宙遊学館などにも行ってみたくなる。