奇妙な孤島の物語

河出書房新社
ユーディット・シャランスキー 著 / 鈴木仁子 訳
2016年2月29日発行 菊判変形・144頁 本体2,900円+税

タイトルに「奇妙」と付いているが、
本書自体も間違いなく奇書である。

なにしろ、現地には一ヵ所も行っていない。
「行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島」
という副題のとおり、著者シャランスキーは、
地図を見て気になった島について資料文献を調べ、
その島で起きた“らしき”出来事を書き綴った。

本書のあとがきに、原著の「はしがき」が抜粋されている。
「ここにおさめた内容の真偽を問うのは、混乱のもとである」

最も近い島、または大陸の街から数百キロ離れた、
文字通り絶海の孤島での出来事なのである。
真偽と言っても当事者以外には目撃者のあろうはずもなく、
当事者はそれぞれに立場や価値観がある。

そういうなかでつくられた記録が、
真に公正中立なものになることなどあり得ない。
真偽を問うほうが無理なのだ。
部外者としては、だからこそ想像の余地があり、おもしろい。

もっとも、本書に載っている話は面白いとばかり
言えるものではなく、後味の悪いものもある。
それも含めて、人間という存在がこの地球の表面で
しがみつくように、こびりつくようにして生き、
そこでそれぞれが何をしているのか、何を思うのか、
想像していると自分が渡り鳥にでもなったような気がする。

著者は子供のころ、地図を見るのが大好きだった。
国ごとに色分けされた区域図ではなくて、
地形によって着色された地図に心惹かれたという。
その気持ちは、私にはとてもよくわかる。
地図を一冊、じっくり眺めるだけで何時間も過ごせる。

本書の中で私は、ディエゴ・ガルシア島と、
トロムラン島の話が心に残った。
左ページに載っている、著者自身が描いた点描の
美しい島の地図を見て、島の何処でどんなふうに
事件が推移したのか、想像してしまうのである。