みはなだ色の夢。

リヴァープレス社
文・写真 三上信夫 / 編 三上れい子・加藤大志朗
2020年11月1日第一刷発行 A5判・164頁 本体1,300円+税

写真集と詩集「まなぐ」の作者、三上信夫さんの
残したたくさんの文章と写真、
地元・岩泉町の母さんたちとの交流の記録を
一冊に編んだもの。

これまでの写真集、詩集と併せて、
三部作のようにそれぞれが流れと繋がりを持って
読む者の心にくさびを打ち込む。

ある時代、ある地域の克明な記録というものは、
探せば日本全国、それなりに見つかるものかもしれない。
現に、私もいくつかの記録を、書籍や映像の形で
見聞きしたことはある。
だが、三上さんの記録ほど、読後に
深い余韻と重さとを残して去るものは他にない。
なぜなのか、ずっと考えてきた。

明治期の俳人・正岡子規は、
写実主義を唱えて俳句を近代に蘇らせた。
ことさらに情感を謳いあげるのではなく、
目に映り耳に響いたそのままを言葉にするほうが、
受け取るひとが想像し、より抒情を感じる、
という趣旨だった。

三上さんの文章、写真も同じことなのではないか。
わざとらしくお涙頂戴の文章や写真にして
湿度を上げるのではなく、透徹した目線で
ただ生きているままに人々を表してある。

本書に掲載された文章も、当時の岩手の自然と
生活が淡々と描かれ、いちいち感情を書いていない。
それだけに余計、会話のひとことから感情を
想像させられる。

その存在の重さは、深い愛情と透徹した世界観と、
高度に洗練された文章とが綺麗に混じりあった
希有な記録として、いつかきっと今よりも
さらに高く評価されるだろう。