文様

株式会社 野ばら社
1986年2月20日発行 四六判・240頁 本体600円+税

文様が一番身近に見られるのは、最近では浴衣だろうか。

菖蒲や牡丹、撫子、朝顔、蜻蛉、竜田川・・・

植物や動物、自然などをモチーフに、
実用上も製造工程の都合からも
写実画のように微細に描くことは出来ないものを、
ひと目で分かるようにできるだけ特徴的に、
かつ単純に美しく造形していく。

特徴を捉えながらどんどん単純化していくと、
線の本数もどんどん減って簡略化される。
簡略化の行き着いた先が甲骨文字であり、
そこから漢字が生まれた、と言ってもいい。

舊漢字字典に載っているような古い文字には、
形状の簡略化を思わせるような形が
色濃く残っている。

さらには、モチーフの特徴を解釈して意味づけし、
長寿や豊穣、健康などの願いも込めた行為は、
文様にも漢字にも共通している。

文様は単なるお絵かきではなく、
漢字は単なるコミュニケーションツールではない。
鋭い観察と思考との集大成として創造された
奥の深い文化なのだということがよくわかる。

この本には、文様の由来や意味の解説はない。
織物や書物、壁画、陶画、石彫、器物などに描かれた
植物、動物、自然現象などが、手書きで写して
ただ並べてある。

それだけに、眺めているだけでも
想像と創造の感覚を強く刺激される。
造形の意味を自分自身に問うという、
デザインに重要な訓練を愉しめる本である。