大人のOB訪問

小さい書房
小さい書房 編
2016年2月19日発行 四六判・88頁 本体900円+税

これは仕事を紹介する本ではありません
と表紙に書いてある。
確かに、仕事の紹介、というのとは少し違う。

求人情報に付随する仕事内容の紹介のほかにも、
近年はインターネット上に一般論的な業務紹介も増え、
ひととおりの業務内容は、自宅などに居ながらにして
情報として集められるような気持ちになる。

だが、それらの情報が実情を反映しているか、
現実の働き方をいきいきと、まざまざと伝えられるか、
というと、大いに疑問がある。

求人情報は企業側の広報PRの側面も持つから、
わかりやすく、明るい雰囲気が伝わるように
編集してあるのが当然だろう。

就職活動ではOB・OG訪問も積極的に行われるが、
広報的な業務紹介よりもよほど生きた話が聞けて
有意義なことが多い。

本書はタイトル通り、そのOB訪問の空気を
書籍の形にしてある。
5つの職種、30代から50代までの社会人に、
仕事をしていて見たものや感じたことを
インタビューしている。

そのすべてのケースで、同じ業界でも会社や個人によって
経験も違えば受け取り方も変わるだろう、
と感じる内容が書いてある。
平たく言えば「人による」と結論づけたくなるような
経験談が載っている。

それが良い。

仕事というのは「人による」のである。
業界が同じでも会社が変われば
文化も、仕事の手順も、価値観も変わる。
逆に、同じ経験を同じ場で共有しても、
人によって受け取り方は違うのである。

本書の経験談を読んで、これがこの職種の世界なんだ、
などと受け取ってしまうと、きっと現実に裏切られる。
世界は広く、あまりにも多様で、その一員として
飛び込んでいくからこそ働くことは面白い。
毎日乗りこなしていく仕事のことを、
あらためてそう思った。