立東舎
黒柳徹子・淀川長治
2016年1月20日初版発行 A6判・256頁 本体800円+税
「徹子の部屋」が2020年で放送45年目になる、
ということもあらためて衝撃的であるが、
出演者の出演回数がすごい。
徹子の部屋の最多出演者は加山雄三で、その数なんと
48回だそうである。(特番・コンサート含む)
通常放送のみの最多は永六輔の39回。
特番含む39回のタモリは2013年まで36年間、
年内最後の放送のゲストと決まっていたとか。
本書に、故・淀川長治は追悼回も含めて14回の出演
とあったので、最多出演だろうと勝手に思って
調べてみたらぜんぜん違った。
そのことは措いて、淀川さんと黒柳さんは
それはそれはとても仲が良かったようである。
葬儀で黒柳さんが弔辞を読んだことからもわかるが、
本書の「はじめに」に描かれている部分でも伝わってくる。
本書は、対談として読みやすい体裁に整えていない。
お二人が話したままを文字起こししたように描かれ、
感嘆もそのまま「うわぁー」と書かれているし、
(笑)も使われていないのに笑ったであろう箇所がわかる。
おしゃべりな二人のとりとめのない会話が、
いま目の前で繰り広げられているように描かれている。
淀川さんは、少なくとも公的には、どんな映画も
絶対に貶さなかった。
どんな映画にも良いところがあるから褒めろ、と
人にも言っていた。
映画に対する敬意とか作った人への礼儀とか、
そういう説明もされていたがなによりも、
感覚を鋭敏にし、気が利くようにするため、
だったのだそうだ。
物語の筋や演出、演技が面白くなくても、
俳優の挙措動作、セットの内外装やロケ場所の景色、
なにかひとつでも美しいものを見つけて伝えたほうが、
見る人も得だし自分にも足しになる、と。
若い人が感受性が強く、年寄りは鈍い、のではない。
年に関係なく、みずみずしい人と涸れた人がいるだけだ。
そのことを、淀川さんは身をもって示していた。
それから本書では、何度もご母堂の話が出てくる。
それに、町で見かけて気に入った他人のありかた、
映画の仕事で視聴者から言われて嬉しかったこと、
うっかりすると通り過ぎてしまいそうな小さな、
幸せなことが山ほど書いてある。
どれほどの愛を持って生きていたのか、と思う。
淀川さん自身が愛に満ちた人だったのだ、と
つくづく感じるのである。