すごく科学的 SF映画で最新科学がわかる本

草思社
著 リック・エドワーズ、マイケル・ブルックス / 訳 藤崎百合
2018年11月22日第一刷発行 四六判・368頁 本体1,800円+税

SF(サイエンス・フィクション)とはなにかを問い始めると
それだけで本が一冊書けるそうなので省くが、
一般的に最初のSF作家とされているのは
ヴェルヌとウェルズの2人である。
彼らの小説は19世紀後半から末期に刊行された。

映画のほうもそれからほどなく、20世紀初頭には
最初のSF映画と呼ばれる『月世界旅行』が製作された。
思ったより歴史のある世界だったようだ。

その後1950年代にSF映画はブームを迎えた。
1954年にはウォルト・ディズニーがヴェルヌの
『海底二万哩』を製作した。
陽気で血の気が多く、単純なようで常識人でもある
銛打ちを演じたカーク・ダグラスが良かった。
子供の頃に大好きで、VHSで何度も観た。

ここ十数年ほどのSF映画は、急激に高度に発達した
VFXやSFXの技術のおかげで、どこまでが実写で
どこまでがコンピュータグラフィックスなのか、
どんどんわからなくなってきている。

そのうち、“実写”という言葉の意義すら
疑問視される時代になるのかもしれない。
2020年以降のコロナ禍は、それを加速させるのか。

だが映像製作技術がどれほど進歩しても、
それだけでSF映画が簡単に作れるようにはならない。
物語の設定が荒唐無稽では説得力を持たないからだ。

本書は、その点の考証というほど厳密ではなく、
もっと気軽に、楽しみながら設定を理解するための
一冊なのだが、日本で書かれた似たような書籍よりも
ひとことで言って面白い。

著者が2人ともイギリス人なのだが、絵に描いたように
シニカルで、ブラックユーモアを遺憾なく発揮した
掛け合い(というか貶し合い)が随所に挟まれていて
これが笑える。

科学というのは、特に宇宙の世界は、まだ仮定の論理が
作られただけで証明されていない事柄が山のようにある。
正確にはわかっていない、ということだらけなのだ。
それをさも整合した話であるかのように“解説”したところで
眠くなるだけなのだが、そこを巧いこと突き放す役割を
うまく担っているのである。

もちろん科学的事実の部分だけでも、
知らなかったことだらけで刺激的に面白いのだが、
結局のところ知ったからどういうことはなく、
知ることそのものが人間の欲求なので、
たぶん数百年経っても人間は変わらないのだろうと思える。

具体的に書くと面白みが減ってしまうので、
細かくは読んでみてもらいたいのだが、
特に科学と関わりない悩みがあっても、読後に
なぜか気が楽になる一冊だと思う。