図案の手帖

株式会社 野ばら社
1993年11月1日発行 B6変形判・336頁 本体680円+税

図案という言葉に耳馴染みがないので
辞書で引くと、

〘名〙形・色などを美的に配合し、装飾その他に利用するため
図に表わすこと。また、その図の柄や模様。
美術工芸品および一般工作物の製作のために、意匠や考案を表現した図。

精選版 日本国語大辞典

ということである。
美術品・工芸品の装飾を考えるときの
アイデア集、という雰囲気の言葉だが、
本書を読むとそのことは実感として伝わる。
いろいろと想像させるのである。

美術品・工芸品の模様は基本的に、獣や鳥や魚、
草花や果物がモチーフになることが多く、
あとは前回紹介した“文様”が使われたり、文字を描く。

いずれにしろ、モチーフを精密に描写することはまずない。
形も色も簡略化・デフォルメして使う。
デフォルメするには、物事をよく観察して、
特徴を捉えてそこだけを抜き出し、
それをバランス良く再配置する作業が必要になる。

抜き出す部分が少なければ少ないほど、
捨てられた部分を見る者に想像させる余地が大きくなる。
その上で特徴が際立っていれば、簡単な線で描かれた図でも
それが何なのかがすぐにわかって唸らされる。

これは、良く出来たロゴマークを見るときと同じである。
図案化はつまり、デザインすることそのものとも言える。

絵の巧い人は例外なく観察眼が鋭いのだが、
それはなぜなのか、本書を眺めたときによくわかった。
デザインの仕事にも、とても役に立つ資質であろう。

この本は手描きの古い図案を集めたものだが、
デフォルメの巧さに古今はない。
図案を紹介するそれぞれのページが、
文字まで含めてレイアウトもよく練られて美しく、
いま見ても、充分によくデザインされている。

アイデアに詰まったときに眺めたい、
手元に置いておきたい一冊である。