アニメーションの色職人

徳間書店
柴口育子
1997年6月30日初版発行 四六判・256頁 本体1,600円+税

色彩設計者、保田道世。
日本で最初のアニメーション映画『白蛇伝』を
製作中の東映動画に入社。
当初はアニメの仕上という仕事がなにかも知らず
ただ就職しただけだったが、時代と人柄で
精力的に仕事をこなすうちに高い技術を得て、
のちにスタジオジブリの色彩設計、
仕上監督の重責を担った。
2016年、死去。享年77歳。

いまスタジオジブリのアニメ作品が
世界中から得ている名声のうち、相当な割合が
この人の力によって積み上げられた。

日本のアニメ草創期の最前線にいて、
私たちが見ていたアニメの常識はほとんど
この時代の人達が作った。

ジブリ以前(という呼び方が正しいかどうかは措くが)、
たとえばアニメで食卓を描くとき、
肉はピンク色の楕円だった。
そういうところの表現で伝わるものが変わる、と、
様々な工夫をしたそうである。

たとえば山の中で、沢の水に手を浸けたとき、
浸かった部分だけ色を濃く(暗く)するような技法も、
この人達が初めて描いた。

アルプスの少女ハイジで、おじいさんがチーズの塊を
火にかざし、溶けかけたところでパンに載せるシーンが
美味そうだというので有名だが、ああいうことである。

神は細部に宿る、という言葉があり、
建築の世界では金言として扱われるが、
アニメも含む映像の世界でも、細部の神々によって
質の高さが決まるのである。

今ではコンピュータによるデジタル作画が世界の主流だが、
その方向へ決定的に舵を切ったのも、
スタジオジブリであり保田さんだった。

大げさでなく、今の世の中の、美的な感性の
かなりの割合を育んできた人たちなのである。

その仕事ぶりが克明に記録された本書に遺る
保田さんの言葉は、そういう気負いを全く見せず、
ただ楽しく好きなことをしてきただけ、という
淡々とした充実感に満ちている。
少なくなかったはずの苦悩も含めて、
それを自分の手で選んできた、という充実。

ものを作る身にとって、怖さと苦しさと
うらやましさ、これを目指したいという熱情が
綯い交ぜになる、カンフル剤である。

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