著 バッジュ・シャーム / 訳 スラニー京子
2019年7月10日初版発行 205*205mm・47頁 本体2,800円+税
ゴンド族<Gond>[名]
インド中部の先住民で,指定部族の一つ。
かつてはインド中央部のゴンドワナ (ゴンド族の国)
と呼ばれた広大な地域に居住した。
形質的にはプロト=オーストラロイドないしは
ベッドイドに属し,言語的にはドラビダ語族に分類される。
多くの集団に分れ,文化的にはかなり地域差がある。
焼畑耕作を営み,父系的氏族組織をもち,トーテミズムの信仰がみられる。
(出典:ブリタニカ国際大百科事典)
デカン高原はインドの南半分を覆うような
広大な高原地帯だから、ゴンドの人々は
インド中央に広く住んでいるということだ。
著者、バッジュ・シャームはそのゴンド族のひと。
ゴンド族には、家の壁や床に絵を描く習慣があって、
バッジュ自身も自宅で親の手伝いとして絵を描いていたそうだ。
当初は画家になるつもりはなかった。
叔父のジャンガル・シン・シャームがその民族的な絵を
『ゴンド画』として世界に紹介し、第一人者となったあと、
大都市で働いていたバッジュを見習いとし、
才能を見出して画家になるよう背中を押した。
ゴンド画は一部で高い評価を得ていて人気があるようで、
探すとけっこう記事が出てくる。
ポップなアート、みたいに表現されることが多いが、
私の目にポップには映らなかった。
原始的壁画のように平面的なデッサンに
驚くほど緻密な模様が施されて、鮮やかに彩色された
とても意味深く精神性の懐が深い絵に見えた。
だからなのか、壁画の依頼を受けて遠くロンドンへ
旅したバッジュが描く北の大都会は、
私たちが知るロンドンよりもずっと刺激的で、
寒々しさもよそよそしさも神の意思によると思わせるほど、
神秘的な雰囲気を伝えてきた。
ものごとは観る側の受け取り方ひとつで
本当に多面的なものであるのだと、痛感させられ
爽やかな読後感を残す、とても良い本だと思った。