セロ弾きのゴーシュ 映画編

徳間書店アニメージュ文庫
アニメージュ編集部 編
1982年12月31日初版発行 文庫判・100頁 本体419円+税

宮沢賢治の作品の中では、セロ弾きのゴーシュは
わりと知られたほうだろう。
詳細なストーリーはさておき、あらすじは有名である。
主人公のチェリスト、ゴーシュと
小さな動物たちとの不思議な交流を描いたファンタジー。

要約すれば確かにそうだが、作品をちゃんと読むと
けっこう印象が変わってくる。

ゴーシュはかなり粗暴で、訪れてくる動物に向かって
次々と怒鳴りつけ、喰っちまうぞと脅し、
下手くそなチェロの演奏で不快な思いをさせる。

小学生の頃に読んだ記憶ぐらいしかないので、
大人の目線であらためて通して読んでみると
友達にはなりたくない感じなのである。

それでも人の好いところもあり、動物たちの要求に応えて
演奏をするうちになんだか演奏も巧くなっている。
他愛のない筋立てだが、わかりやすい成長物語でもあって
人気があるらしい。

人の心のわけわからなさと、純朴なストーリーと、
両立させて描くところが賢治の不思議さでもあるかもしれない。

高畑勲が監督した1982年のアニメ映画は、
スタジオジブリ製作ではないが、
世界名作劇場をつくったメンバーや
アルプスの少女ハイジで高畑勲と組んだメンバーのいる
アニメ製作会社の手によって、
5年がかりで作ったのだという。

原作を大事にしながら、キャラクター造形に
歪みのない程度に変更を加えて、
より心情に伝わりやすくする演出は
後の高畑勲監督作品と共通していて、
印象も良いし、稚拙さもない。

本書は、その作品のコマをそのまま使った
ノベライズ文庫だが、ストーリーと演出と作画の
率直さもあって、小説を読むようにすんなり読める、
子供に薦めたくなるような素直な本である。