いつかたこぶねになる日

素粒社
小津夜景
2020年11月5日初版第1刷発行 B6判・272頁 本体1,800円+税

日頃から漢詩に親しむ人生ではなかったので
この本を読んで本当に驚いたが、
漢詩は日常生活にとても“合う”。

日々の生活の、こまかな発見や疑問、喜びといった
“他愛のないかけがえのなさ”のようなものが、
最近ではドラマでも映画でも小説でも
主題になることが増えてきたが、そういうものにも
漢詩はぴったり寄り添っている。

そういうことを、本書を読んで初めて実感できた。
現代詩も含めても、詩人の感情や感傷に共感し
感情移入したのは初めてである。

そうさせた著者・小津夜景さんの凄さ。

本書では漢詩を、訓読どころか書き下しにもしていない。
自由律詩に日本語訳しているのだが、
その詩そのものがもう素晴らしいのである。
原詩から感じる感情や情景に見事に添った詩になっている。
それらの詩と結びつくエッセイもまた、
情景が浮かび上がってその場にいるような、
文章の手本のようなエッセイになっている。


友人に一人、蘇軾(蘇東坡)が好きで
彼の詩で酒が飲める、と言っていた人がいて、
酒に弱く漢詩もろくに知らない私には
ちょっとわからない感覚だった。

本書を読み、その友人の存在のことを考えたら、
世界の日常は当たり前のように漢詩と共にあって、
無知で無教養な私一人がそうと知らないだけなのか、
と恐怖に駆られたぐらいである。

四十を過ぎてこんな驚きを得るとは思わなかった。
まだまだ知るべき世界がある。