88歳のジーンズ。

リヴァープレス社
三上れい子
2021年7月27日第一刷発行 A5判・142頁 本体1,500円+税

スマホや幼児用ハーネスはおろか、
おんぶ紐抱っこ紐なども含めて、
そんなものを使う子育ては甘えだ、とのたまう
お年寄りがいるらしい。
いわく、自分たちの時代にそんなものはなかったが
立派に子育てをしてきたのだ、と。

そういう人たちに、じゃあ洋服も和服も全部
自分で縫って子供たちに与えてきたんですね?
既製品の服なんてなかった時代もあったんだし、
ということは既製品の服が広まったときには
それは甘えだって言わないとおかしいですもんね?
と訊けば、たいてい黙るのだそうだ。

既製品の服は、ただ人々の労力と時間をビジネスに
変えただけなのだから、悪いことでは全くない。
甘えでもないから堂々と使えばよい。
いま主流になっている価格の安い服が、
児童労働などの問題を抱えて簡単には解決できない
社会的な問題になっているのとは、また別の話である。

それはそれとして、買った服を粗末にする時代になったのは
確かに事実なのかもしれない。
私の本業は建築関係だが、リフォームという言葉は本来、
洋服やカバン・靴を仕立て直しの意味だったのが転じて、
というか建設業界が便乗して、使いだしたら広まったという事実を
知らない人もだいぶ増えてきた。

SDGsの掛け声が喧しいが、わざわざお題目をぶち上げなくても
何世紀も前から世界中で、服は自分で繕って長く使うものだった。
つくろいもの、という言葉も行為も、まだ記憶にある人のほうが
絶対に多いはずである。

既製品を手に入れるのがあまりにも手軽になりすぎた
現代を生きる我々が、値打ちまで勝手に軽くしてしまった。
衣類に限らないのかもしれない。
衣食住のすべてにおいて、余ったら捨てればいいや、
の発想に流されすぎたように思える。

すべてが昔通りがよいとは思わないが、
いまあるものの全てが、進化・改良の結果だとも思わない。
振り捨ててきたものも、あまりにも多すぎる。
そのことが、本書には書いてあるように思える。