上野絶滅動物園

三恵社
著 佐々木シュウジ / 写真 武藤健二
2019年05月15日発行 B5横判・108頁 本体1,800円+税

上野動物園のジャイアントパンダは、
シャンシャンが2023年2月に中国に返還されて、
いま(2023年3月時点)は5頭で暮らしている。

愛らしい見た目と緩慢な動作が可愛いと人気だが、
その緩慢さゆえ、生存していけるのか心配にもなる。
この写真集のジャイアントパンダは、後ろ姿である。
そこに写る哀愁がジャイアントパンダという種を
表しているような気がして涙が出た。

パンダは中国にいっぱいいる、と勘違いされがちだが、
野生では中国でもすでに湖北・湖南の両省では絶滅。
四川省の一部にしか分布していない。
大昔はベトナムとミャンマーの北部にまで居たのに。

オランウータンなども同じで、人間の活動が
生息域を急速に狭め、個体数の減少を
猛烈に早めてしまっているのは事実なのだ。

ドードーやステラーダイカイギュウ、ニホンオオカミなど
すでに滅んでしまった種の名前も、
この頃ではずいぶん知られてきた。
どの種も、自然に滅ぶ運命だった、のではない。
はじめて発見された記録から絶滅が確認されるまで、
わずか1世紀ほどの種も多くいる。
この短い期間に自然消滅することは考えづらい。
人間が滅ぼしたのである。

食料として、観賞用の剥製に、ただ狩猟の獲物として。
理由はいくつかあるが、現代の我々からみれば
必然性のない殺戮としか思えない。

一方で、身近な環境でもクマ、シカ、イノシシなど
生息域が人間と重なり始めた動物の駆除の問題もある。
何が何でも動物は愛護すべし、一頭たりとて殺すな、
というのは絵空事だとは思う。
だが、絶滅危惧種じゃないから構わない、
人間の邪魔だから排除するのだ、という単純な理由で
生命を奪うことに対して、すんなり飲み下せない
違和感があるのもまた事実だ。

珍しい動物を見て楽しむのは良い。
好奇心は知性の顕れだし、なにより様々な問題を
解決するきっかけも好奇心にこそある。
だからこそ、見せ物、笑いものとしてだけ見るのではなく、
過度に擬人化して哀願するのでもなく、
生命そのものとしてそこにいる動物を見たい。

具体的に、すぐに何かが出来るかはわからないが、
答えが出なくてもいい。
動物園を歩くとき、そういう重苦しいものを
ほんの少しでいいから抱えて、動物たちの目を見たい。
目を背けるのは悔しいじゃないか。
人間だって動物なんだから。