断片的なものの社会学

朝日出版社
岸政彦
2015年5月30日 第一版発行 四六判・244頁 本体1,560円+税

「社会学者として、語りを分析することは、
とても大切な仕事だ。
しかし、本書では、私がどうしても分析も解釈もできないことを
できるだけ集めて、それを言葉にしていきたいと思う。(中略)
この世界のいたるところに転がっている無意味な断片について、
あるいは、そうした断片が集まってこの世界が
できあがっていることについて、(中略)、
思いつくままに書いていこう。」

本書の前書き

日頃見過ごしていたり、気にも留められないまま、
確かにそこにあった“もの”と“こと”。
小さなことだから、昔のことだから、と
なかったことにしてきたけれど
本当は心のどこかに引っかかったままだったり
本当は少し傷ついたりしていた。
そういういろいろなことが思い出され、
読みながら時々、少し痛みを伴った。
それでも読後には、読んでよかったと思えた。

何かに激しく傷ついたときに、反射的に笑うことがある。
女流作家とは言うが、男流とは言わない。
一般的な”幸せ”へのイメージが
ときにそれを得られないひとへの暴力となりうる。

取材で出会った人や、経験上の出来事の中から
そういった細かな断片を拾い上げている。

その断片の集まりで世の中ができている、
ということを知っておくことで
自分や他の誰かのためになることがあるかもしれないし、
全くないかもしれない。
その至極当然なことを、当然のように思えることが、
大切だと感じた。

タイトルの印象とは裏腹に、本書はとても読みやすい。
だからぜひ読んでみてほしいと思う。
「社会学」とタイトルにあっても、
内容は短いエッセイで構成されている。

生きるうえで覚えておきたいことを、
折に触れて本書を開くことで、忘れない自分でいたいと思う。