モノからモノが生まれる

みすず書房
ブルーノ・ムナーリ 著/萱野有美 訳
2007年10月23日 第一刷発行 四六判変形・392頁 本体3,600円+税

ムナーリほど「何した人?」と聞かれて
説明するのが困る人も少ない。
やったことが多岐にわたりすぎているのである。
工業デザイナー、グラフィック・デザイナー、
絵本作家、造形作家、映像作家、彫刻家、詩人、
美術評論家、美術教育家…
これで全部かどうかも定かでない。
アーティストと呼んでしまえば簡単だろうが、
単にアートだけやってた、とも言えない。

家具、アクセサリ、玩具、バイクなど多岐にわたって、
いかに描けば機能的で、美しくて、長持ちするかを
考え抜かなければならない、とした。
これは私でさえ知っているぐらい普遍的な、
“デザイン”の大原則であり神髄である。

「企画するのは、そのやり方を知っていれば簡単なこと」

とムナーリは言い切るが、やり方とは小手先の
手練手管のことを指していない。

「豪華さは愚かさのあらわれである」
「家具は最小限のものでじゅうぶん」

このようにも書いているが、これを言い切るには
途方もない量と質の思考と試験を繰り返した結果を
自分の中に持っていなくてはならない。
まるっきり何にも無いすっからかん、という意味ではない。

不要に豪華な、無駄な装飾とは、必要な装飾が何かを
わかっていなければ判断できない。
最小限の家具とはどの程度なのか、は、生活に必要充分な
機能を把握していなければ判断できない。

デザインという言葉の持つ意味が軽くなっていると思うが、
ムナーリの残したモノを見ると本当によくわかる。
“デザイン”は見た目だけを指すのではない。
端的に言えば、考え抜く、ということであろう。
それは分野を問わず必要な努力であり、資質である。

やり方を知っていれば簡単、とまではまだ言えないが、
正しいやり方、思考の仕方を忘れないように、
本書をいつも手元に置きたいと思う。