野宿に生きる、人と動物

駒草出版
なかのまきこ
2010年06月18日 初版発行 四六判・255頁 本体1,600円+税

日本三大ドヤ街と呼ばれた東京・山谷の近くの公園で、
隅田川医療相談会というのが毎月行われている。
本書で言うところの野宿仲間、ホームレスの人たちの
健康相談や生活相談をメインにしたボランティア活動である。

著者のなかのまきこさんは獣医師で、ひょんなことから
その医療相談会の中で、動物の医療相談を受け始めた。

ホームレスの人たちは、意外に多くの方が動物とともに
暮らしているそうである。
それは“ペットを飼う”と呼べるほど
気楽で贅沢なものではない。
捨てられて行き場をなくした犬や猫や兎などを、
放っておけなくて“ともに暮らす”のである。

捨てられた動物たちは多くが、
不妊手術も予防接種もろくに受けていないから、
病気にも罹りやすい。
ブリーダーが無責任に無理やり生ませたために
体に不自由があり、それを理由に捨てられてしまって
そのままでは生きていけないケースもある。
挙げ句の果てに、ホームレスがいそうなところに
ペットを捨てていくケースもあるらしい。

胸くそ悪いにも程がある。
問題は根深く、こうすべきだ、こうすればよい、と
安全圏から無責任な自称“解決策”を唱えたところで
何の意味も価値もない。解決も絶対にしない。
動物たちが可哀想、という憐憫だけでは
なにも変えられないし、行動が続かない。
飼い主の無責任だけが原因とも限らない社会状況があり、
誰かひとりを見つけて責めても自己満足に過ぎない。
どうすればよいかの解決策は簡単には見つからないし、
もしかしたらどこにもないのかもしれない。

それでも考え続け、できることを増やし続けるしかない。
続けていった先の未来は、たぶん今よりすこしはましだろう。
私にいまできるのは、この本を売り続けることだけ。
でもそれを頑張ろうと思える。
トンネルの出口に見える光のような、
中野獣医師の記録である。