浜辺のクジラ

岩手日報社
伊藤美穂
2019年5月25日 第一刷発行 A5変型・123頁 本体1,200円+税

幼い頃、家の牛小屋の前で
とぐろを巻いて座っているヘビを見かけた。
とぐろの中にはネズミが。
ヘビはネズミを食べていたのである。

ぎゃあ!と、即座にその場を離れた。
ヘビが極悪非道な生き物に見え、
ネズミがかわいそう、と思った。

この物語は冒頭、クジラの親子が
シャチに追われているところから始まる。

シャチは生きるためにクジラを追う。
クジラはシャチに捕まったら死ぬ。
クジラがかわいそう、とも思えるが
何も食べられなければ、シャチは死ぬ。
その場合はシャチがかわいそうなのか。

残酷とも無情とも思ってしまうが、
そうやって命は繋がっている。
人間もいつか必ず死ぬが、
自然の一部にかえると思えば
少し怖い気持ちもなくなる。

主人公である小学生の敦子は、
クジラ研究者の母と一緒に海辺の町に引っ越してきた。
そこで見た景色、出会った人や動物や虫たち全てが
敦子にはとても新鮮で、
見て触れて、体感して、自然に順応していった。

そんな敦子に、山で生きていた幼い頃の自分を重ねた。
カエルの卵、カマキリの卵、バッタ、タニシ、セミの抜け殻。
ヤモリ、イモリ、サワガニ、タヌキ、キツネ、ヘビの皮…
海と山では、出会う生き物は全く同じではないけれど
幼いときのワクワクする感覚は同じだ、と
懐かしく思い出された。

文字が大きく全てにルビがふられていて、
子どもにも読みやすく作られている本と感じる。
自然の中にはたくさんの命があること、
そしてその命は繋がっていることを
本書を通じてたくさんの子どもたちに
感じてほしいと思える一冊。