山と渓谷社
澤口たまみ 著
2023年3月5日初版第1刷発行 B6判208頁 本体1,900円+税
レイチェル・カーソンは、最晩年の遺作
「センス・オブ・ワンダー」で
“自然の不思議さや神秘に目を見張る感性”を
子どもは誰しも持っていて、大人になるにつれ
失われていくものだから、意識してそれを
ずっと保ち続けよう、と書いた。
宮沢賢治はそれを、カーソンよりも少し先に
実践していたと言える、と本書のエピローグにある。
本当にそうだな、と思わされる。
作品の不思議な美しさ、言葉の選び方・つくりかた、
形容詞などの表現の飛躍などを読むと、
世に擦れて良かれ悪しかれいろいろなことを覚えた
“大人らしさ”が感じられない。
自然の中に飛び出して、雨や風が吹き流れていく音、
それが起こす植物のふれあう音、鳥や虫が動き鳴く音、
光、匂い…そういうものにいちいち反応していた
感受性がそのまま言葉になったような、
とりとめもないと言えば言えるが、
純粋で敏感な感応の言葉だったのではないかと思える。
そういう賢治作品から一節、小文を抜き出して、
科学的に解説しながら賢治の心情を推察するのが
この本のつくり。
著者は岩手に住み、賢治と同じ学歴をたどって
科学絵本を書き、エッセイも書くひと。
それだけに、他人ごとのような解説をするのではなく
同じ場所を訪れ、感じて、賢治はこう感じたのではないか、
と寄り添っていくような書き方で、賢治への敬意と
愛を感じる。
随筆「台川」の舞台は私の祖母が住んでいた場所で、
風景も昨日見てきたように目に浮かぶ。
その一節の解説もまた本当に興味深く、
一部誇張があったのではないか、そのとき賢治は
こういう心情だったのではないかとじっくり解いていて、
今までにない身近さを持って感じられた。
難解だとばかり思っていた賢治作品も、
こうして読み解いていくとまったく違う側面が見える。
今さらながら、本というものは奥が深く面白い。