たったひとつの贈りもの わたしの切り絵のつくりかた

朝日出版社
児玉清
2003年12月15日初版発行 B5判変形・96頁 本体1,420円+税

クイズ番組・アタック25の司会や数々のドラマで
著名な俳優・児玉清が、売れっ子になる前から始めて
ライフワークとしていたのが切り絵だった。
その作品集と、本人の手稿が載った本。

若い頃、俳優だけではそうそう仕事も無い、というので
なにか稼ごうと思ってマリオネットを作ったという。
それがあまりに手間がかかり、売値と合わないので
やめて、その後開眼したのが切り絵であるらしい。

もうその時点でちょっと、作ることや描くことに向いた
才能を持ち合わせていたのだな、と感じて
読んでいるこちらは真似するのを諦めそうになるが、
作品を見るとセンスに溢れてはいるものの、
まるっきり真似できない感じではない。

なんというか、おおらかに、細かいことには拘らず、
想像と雰囲気でそれっぽく見えていれば充分なのよ、
と言ってくれそうなユーモラスな作品群である。

もちろん、ご本人はたびたび海外へ行って、
きちんと実物を見ているからこそ
「パリのおまわりさん」とか「ニューヨークの消防士」とかを
モチーフにして、細かいところや色合いを見事に表現しているのだが、
それでも人物の鼻は赤かったり、形はゆがんでいたり、
手足の位置がずれていたり大きさがデフォルメされていたり、
とにかく「いいのいいの!」と言いながら作ったような
気軽さが感じられて、見ていて楽しい。

日本の学校教育のせいなのか、何事も上手に出来なければ
悪いことであるかのように思ってしまいがちだが、
やってみて、なんとなくそれっぽかったら「おお、いいじゃん!」
と言ってしまう感覚こそが、上達への近道なのだということを
ちょっと思い出させてくれる。

料理もスポーツも絵も、工作もダンスも書道も詩も、
やってみれば自分にしか出せない世界があって、
巧い下手よりもそっちのほうが大事なのである。

風貌や雰囲気の柔らかさ・優しさと芯の強さと、
両方を持ち合わせて独特の表現をしていた児玉清の、
存在感の根っこはむしろこっちにあったのではないか、
という気がする。