天動説の絵本

福音館書店
安野光雅
1979年8月5日初版発行 25×23cm48頁 本体1,500円+税

この本はぜひ、あとがきをじっくり読んでほしい。
作者・安野光雅の思いがすべて込められている。

現代に生きる我々は、自分たちの生きる大地が
実は球体の一部で、それを地球と呼んで、
太陽を中心にした周回軌道を動いていて、
同時に地球自体も軸を持ってぐるぐる回っている、
ということを知っている。
この目で見たわけでも、体感したわけでもないが、
知っている。

多くの先人たちが、時に命を落とす悲劇に見舞われながらも、
たくさんのことを調べて、書き遺してくれたおかげで、
我々は“知っている”。
自分の五感で感じ取って理解したわけではない。

いっぽうで、それを知らずに空のほうが動いていたと
考えた昔の人々を、愚かだと嗤う傾向がある。
でもそれは間違っている。

天動説、ペスト、錬金術。
これらを信じていたのは、否定する根拠がなかったからだ。
馬鹿だから信じたのではない。
やはて大航海時代が始まり、地動説の根拠が
生まれ始め、コペルニクス、ガリレオ・ガリレイ、
ジョルダーノ・ブルーノが登場する。

コペルニクスが天動説に思いを馳せたとき、
きっと眠れぬほどの恐ろしさを感じたでしょう、
と安野光雅は書く。
このことを私たちは、すぐに忘れてしまう。

正しいことは正しいから正しいんだ、というのは
なにも考えていないことと変わりはない。
誰かが裏付けてくれた知識を教わって
それを当然だと思っているだけの姿勢と、
まだ裏付けを取る方法も限られていた時代の人が
当時なりに考えたことを正しいと信じている姿勢の間には
差は無い。
人から言われたことを鵜呑みにしている、という点において、
なんの違いもないのだ。

そういう、考えて、感じ取って、証明して、
ああこれが正しいんだ、正しいのかもしれない、と
“知っていく過程”をこそ、安野さんは尊んだ。
それを知らせたくて、安野さんはこの本を書いたのではないか、
と思う。あとがきに書いてあるのもそういうことではないかと
私は感じる。だから安野さんが好きなのだ。

私が生まれた年に、この本は発刊された。
そのことの凄さと、宇宙のとてつもない広さ、
その面白さは、ぜんぶつながっている。