泡沫の歌 森鷗外と星新一をつなぐひと

星ライブラリ
小金井喜美子 著 / 星マリナ 編
2018年1月26日発行 新書判・200頁 本体1,001円+税

明治・大正期の隠れもない文豪、森鷗外。
昭和期のSF作家、「ショートショートの父」星新一。
あまりつながりを感じないふたりの大作家の結節点に、
この本の著者・小金井喜美子がいる。

小金井喜美子、翻訳家であり歌人。
森鷗外の妹であり、星新一の祖母である。
「血は争えない」という言葉もあるけれど、
エッセイを読んでも短歌を読んでもそれを痛感する。

品があり、言葉の選び方が正確で巧みで、
晦渋なところが全くない。
“みずみずしい文章”という表現の実例を見る思いがする。

夫・小金井良精が著名な解剖学者・人類学者だったため、
発掘された古い人骨が身近だったらしくて、
短歌にも「髑髏」という言葉が出てくる。
だがおどろおどろしいところもなく、からっと乾いて
ちょっと笑みの浮かぶ、気持ちの良い歌なのである。

骨の質 歯の数読めば 知らるとよ 並ぶ髑髏の 老若男女

こんな具合である。
もうだいぶ茶色がかった古い頭骨が机に置いてあって、
眺めまわして調べ考えている姿が目に浮かぶようで、
そこに不気味さ、異様さは全く感じない。
「骨とか歯を見ればわかるんだって」という単純な驚きが、
からっと伝わってくるのである。

そうなると不思議なもので、髑髏がしゃべり出しそうな
動きだしそうな雰囲気を感じる。
それこそSFのように、少し宙に浮くような
軽やかさが感じられてくるのだ。

星ライブラリからは『三十年後』という
SF小説も出版されている。
これは星新一の父、星一(ほし・はじめ)が書いたもの。
もうあまり残っていなくて貴重なものを頂いて読んだが、
これもまた見事なものでいつか紹介できれば、
と念じずにはいられない。
血の中に“面白い空想世界を持っている”ということは
間違いなくあると思う。

短歌に詳しいわけではないが、
言葉も、字余り字足らず、句跨がりを濫用しない。
きちんきちんと五七五七七に収まって、
それがまた余韻を残している。
快いリズムになるからかえって余韻が深いのかもしれない。

本全体に確固たるリズムと世界がある、というのは
小説でもエッセイでも歌集でも変わらない
面白さの基準のひとつではないか。