菜の辞典

雷鳥社
長井史枝 テキスト / 川副美紀 イラスト
2019年11月11日初版第1刷発行 A6判・320頁 本体1,500円+税

はじめてこの本を手に取ってページを開いたとき、
ふぅ~わぁ~と声が出た。
感嘆、であった。

180種もの野菜が、旬・選び方・保存方法・調理法
栄養素・効能などを網羅して紹介されている。
その表示も綺麗で見やすく、よくデザインされているなあ、
と思ったものだが、やはり絵である。

写実的に細密に絵を描く、というのは案外に難しい。
茎や葉の産毛のような“毛状突起”をそのまま精密に描き写すと、
毛深くトゲの多い、黒っぽい物体に見えてしまう。
だが実際の毛状突起が白っぽければ、その茎は光の中で
むしろ白っぽく、色合いも淡くぼやけて見える。
ただ描けば良いというものではなく、
ぼかしたり、あえて描かなかったりする必要がある。

その点で川副さんのイラストは、写実的である。
目を凝らせば、線をそんなに細かく描き込んではいないのが
見えてくるのだが、全体としてはその野菜そのものに見える。
写真のよう、というのともまた違う。
本当の意味で“リアル”なのだろう。

漫画のように輪郭の線があるわけでもなく、
色の陰影で形を浮き彫りにしている。
こういう絵が描けたらいいなあ、と思い続けてきた絵が
そこにあった。

もはや羨ましくも妬ましくも思わない。
目にして感動する。ありがとう、と思う。
そういう美しさである。

どのページから開いても構わない、どこからでも楽しめる。
絵もページ組も美しく、文字数はたいしたことないのに
いつまでも読んでいられる。
恐ろしく、素晴らしい本である。