もりのえほん

福音館書店
安野光雅
1981年2月25日第1刷発行 27×20cm・34頁 本体1,000円+税

本を開けば、安野光雅らしいタッチの
美しい森の風景がページいっぱいに広がる。
感心して眺めているとなにやら視線を感じる。

どこかに、生き物がいるのだ。
そう気づいて目をこらすと……いた!

リス、イノシシ、フクロウ、ハト…
日本の森にいる生き物だけでなく、
ゾウ、ライオン、フラミンゴ…
世界中からいろいろな生き物が集まっていて、
しまいにはヒトもいる!

2023年7月から9月24日まで、
岩手県花巻市の萬鉄五郎記念美術館
『安野光雅 表現者の旅路』という展示があり、
原画を見ることが出来た。
※この感想文を投稿した時点ではまだ会期中。
ご都合が合えばぜひ見て欲しい。
私の知る限り、岩手で行われた最も素晴らしい展示だ。

子供には子供向けの単純なものを与えればよい、
という考え方はまったくない。
手加減なしで美しい絵を見せ、感じさせることが
大事なのだと行動で伝えていたのではないか。
小学校の美術教師だった頃にも、
大の大人が感嘆して作りたくなるような工作を、
その意図までを熱意を持って提案していた。

原画の植物は、原色を使わず柔らかいのに鮮やかで、
精細なのに想像の余地が充分にある。
むしろ想像が促され、意識が世界に飛躍する。
『旅の絵本』の原画など、本当に旅するようである。

『もりのえほん』も、隠し絵の動物を探すための
遊び絵なのではない。
ほんとうに森にいるようにして見入り、
ごく自然にそこにいる生き物の気配に気づく、
というふうにして見る絵なのだ。
原画を見てよくわかった。何時間でも見ていられる。

絵本作家と呼ばれることを嫌っていたそうだが、
紛れもなく彼は画家であり、絵本の1ページごとが作品であり、
描かれるテーマは科学、数学、文学に通じていて、
渾身の芸術家、表現者だったのだと感じる。

大人向け絵本、とか、絵本は子供の読むもの、とか
一般的に言われ、考えられる区別がいかに無意味か、
美しいものはすべての人にとって重要で価値がある、
ということを教えられる本。