石の辞典

雷鳥社
矢作ちはる 文 / 内田有美 絵
2019年4月25日初版第1刷発行 B6判変形・288頁 本体1,500円+税

はじめてこの本のページをめくったとき、
イラストが写真に見えてびっくりした。
表面の手触りや冷たさ、透明感、重みまで、
見事に表現されている。

石、鉱物というものに、なぜだか人は
惹きつけられるらしい。
現代でもマニアがたくさんいるし、
我らが宮澤賢治も「石コ賢さん」と綽名されるほど
鉱物が好きだったが、
なにしろ石器時代から人は、石をあがめてきた。
呪術の道具として用いながら、
石そのものを神や霊に見立てて斎き、祀った。

原始の時代に、土を掘り岩を砕いていたら突然、
水晶や琥珀のような透明度の高いものが現れたときの
気持ちと驚きを想像するととても楽しい。
玄武岩や花崗岩のような岩石も、
奇妙にいわくありげな模様があったりすれば、
そこになにかの意味を感じたくもなろうというものだ。

迷信と言えばそれまでだろうが、
「鰯の頭も信心から」とも言うし、
鰯の頭よりは石のほうがよほど霊力もありそうである。
なにしろ、土や砂やマグマが石になるには
何千年、何万年もかかるのだ。
それだけの時間の間には、なにがしか、だれかしらの
念だって籠もっても不思議ではない。

石を手のひらに載せて見つめていると、
なんだか語りかけられているような気分になる。
声の主は悠久の時間なのかもしれないし、
込められた念なのかもしれない。
その小さな小さな、ひそやかな声が、
この本からも聞こえる。
写真よりもイラストで描かれることによって、
より澄んで聞こえてくる、気がする。