牧野富太郎 なぜ花は匂うか

平凡社
牧野富太郎
2016年4月8日初版第1刷発行 B6判変形・224頁 本体1,400円+税

練馬区の牧野記念庭園には何度か行った。
今では展示スペースなどに使われている建物は
もともと牧野富太郎が棲んでいた敷地内にあって、
さほど大きくなかった。
だから展示自体は高知の牧野植物園(美術館・博物館併設)
のほうが、よほどたくさん展示されてあるのだろう。

もともと博物画が好きで牧野博士を知った身としては
高知の植物園もいつか必ず行きたい場所であるが、
牧野庭園も本当に良い場所だった。
なにしろ、300種類の草木が生きているのである。
こんなにさまざまな植物をひとつところに植えて
共に生かしていくことが出来るのだな、という感動があった。

なかにはとても貴重な植物もあるらしいが、
だからといって目立つ珍奇な植物なわけではないので
散策して気が散るようなものではない。
とても良い空気の場所だった。

本書にも書いてあるが、牧野博士は植物に対して
人に向けるのと同じ愛情を向けていた。
人柄はけっこうエキセントリックなところもあったようだが、
愛情の深さは庭園を見ただけでもわかる。
雑草という草はない、の言葉は、
“巧いこと”を言おうとして言えるものではない。
地面を這って草花を見た人の言葉である。

平凡社のSTANDARD BOOKSというシリーズは、
各書籍の著者についての随想を著名人などが書いた
2つ折りの紙片を栞として付けてくれていて、
それがとても素晴らしいのも特徴である。

牧野博士の本書は、栞を梨木香歩が書いている。
牧野博士を「破格の人」と表現していて、
それはもう本当にそのとおりだな、と思う。