身近な野の草 日本のこころ

筑摩書房
稲垣栄洋 著 / 三上修 画
2014年3月10日第一刷発行 文庫判・256頁 本体700円+税

著者が農学博士で雑草の専門家、というだけでも
もう牧野富太郎博士を思い出してしまう。
“雑草”の専門家など本当はいなくて、植物の専門家だが。

とりあえず私も、春の七草は言える。
「せり なずな ごぎょう はこべら ほとけのざ
 すずな すずしろ 春の七草」
である。覚えるのは簡単だったが、
これのどれが何の植物であるのか、セリしかわからん、
という方、多いのではないだろうか。
私もそうであった。

本書では、第二章でいきなりひとつ解明する。

野の草ひとつひとつの来歴、名前の由来、生態などが
じっくり観察した人でなければ描けない密度で描いてある。
難解ではないのですらすら読めるし、
なにしろ挿絵が良い。
三上修さんの絵は博物画であり、イラストでもある。
野に生きているときの姿そのもの、という感じで、
大きな判ではないのだが、見るものに迫る。

本当にタイトルどおり、身近なところに咲く
草花で、食べられるものがすいぶんある。
この知識があると、いざなにか異変が起こったときにも
たくましく生きて行けそうである。

それになにより、道を歩いていて道ばたに
“草がいっぱい生えている”としか思えないのと、
ひとつひとつの名前がわかって、植生から
地域の環境がわかったりするのは楽しい。
それは動物や昆虫に範囲を広げて、
知覚できる自分自身の世界も広げてくれるだろう。

いつお手元に置いて、教養として身につけたい
草花の話である。