にほんの詩集 宮沢賢治詩集

角川春樹事務所
宮沢賢治
2022年7月18日第一刷発行 四六判・160頁 本体1,800円+税

造語や言葉遣いが難解なのでどうしても読み進まず、
距離を置いてしまう。
賢治の故郷・花巻に育ちながら、宮沢賢治の作品は
高い壁としてずっと聳えていた。

東京へ出てから知り合った人々のほうが、
下手をすると私より賢治を読んでいたかも知れない。
特に詩は…

物語なら、個人的には「オツベルと象」や
「月夜のでんしんばしら」「注文の多い料理店」
「どんぐりと山猫」「なめとこ山の熊」
なんかは好きだったが、
どれも賢治作品の中ではストーリーも寓意も
わかりやすいほうであろう。

わからないながらもなんか感じる、という読み方には
縁遠いままここまで来てしまった。
詩を読んでなにがしかの思いを持つに至ったのは
本当にごく最近、コロナ禍で時間が出来てからの話だ。

この本で言えば、
〔今日は一日あかるくにぎやかな雪降りです〕
は、なにが言いたいかが比較的わかりやすいが
それでも言葉の飛躍とか独特の比喩があり、
疑問と納得が並んでやってくる感じがする。

とりあえず、光に満ちて明るい光景が浮かんできた。
それは地面も野山もまぶしいぐらい真っ白で、
空気は冷たく清冽で、寒いがすがすがしい感じ。
どことははっきりしないが見たことがある気もする。

賢治の読後感はいつも釈然としないのだが、
この本はわからんでもいい、と思えた。
ひとつには装丁の美しさがあると思う。
カバーは全体を覆わず、幅の広い帯のようで
取っても付けても手馴染みが良い。

ひととおり読んでみて、賢治の本体はやはり
詩人のほうだったのかな、とも思う。
言葉を綴りながら、宇宙とか数千年数万年昔の地球に
意識が飛んでしまっているように読める。
賢治自身にとっても、それは幸せだったのではないか。

当人が目の前にいたら、わかろうとせんでもいいと
言われそうな気もする。
この記事を書いた9月21日は賢治忌。