筑摩書房
宮沢賢治 著 / 杉田淳子 編集 / 栗原敦 監修
2014年12月10日初版発行 文庫版・368頁 本体880円+税
『なめとこ山の熊』という作品が切なくて
大好きである。
その中の「つるつるとした空」という表現が
子供心にも印象的でよく覚えている。
青く硬く、氷が綺麗に張った水面のような表現で
冬の空のことかとも感じられる。
『なめとこ山の熊』は熊を撃つ猟師の話だから、
山の獣の猟期は冬だし、当然かもしれない。
賢治の作品では他にも、自然の様子を表すのに
「きんきん(きいん、キィンキィン、キンキンなど)」
「しんしん(シィン、しいんしいんなど)」
といったあたりがよく使われる。
雪の描写に限らないのだが、けっこう寒い印象を
ずっと感じている。
本人がなにも解説していないのだし、
読み手が感じたように受け取れば良いのだろうが、
賢治の擬音に関する感じ方や描き方を
本人に確認してみたかった、とはいつも思う。
本当に独特で、ときに受け取り方に戸惑う。
この本では、賢治作品に出てくる擬音表現を
150ほども拾い集めて紹介している。
あまり冗長に検討、解釈はしていなくて
とにかく紹介し、他の作品にも似た表現がある、と
控えめに共通点を教えてくれたりする。
その塩梅がとても良い、と感じた。
賢治作品はなにしろその独特さが特徴的で面白く、
だからこそ解説したくなるのだろうが、
あまりにもいろいろ解説しすぎると興がそがれる。
わからないところが多すぎても困るのだが、
『風の又三郎』の風の音がどう、どどう、
どっどどどどうど どどうど どどう、
であることの解説など、聞くだけ野暮というものではないか。
巻末の監修者解説も、分析・決めつけではなくて
他の事例や他の作家の評価、書き方などから
時代背景まで含めて俯瞰して、賢治作品を楽しむ、
という姿勢で描かれているようである。
花巻市に生まれ育って、賢治作品が
割と身近に感じられる環境だったにもかかわらず
なかなか食指が動かなかった身にとって、
オノマトペから広く見ていく賢治作品は
とても面白そうに映る。
ありがたい入門書である。