宮沢賢治の地学読本

創元社
宮沢賢治 作 / 柴山元彦 編
2020年7月30日第1刷第1版発行 A5判288頁 本体2,200円+税

「石コ賢さん」と呼ばれ地学教師でもあった宮沢賢治なので、
幻想的なその作品群の中には、たくさんの石の名前や
科学的な表現がちりばめるように使われている。

本書では、特に地学的な表現が顕著な5編を、
本文の下部に注釈として地学・科学的な解説を添えるかたちで
掲載して、知識的な背景を同時に理解しながら
作品を読むことができる。

画期的なわけではないが、ときに難解で
表現が常に独特な賢治作品を、より深く理解しやすく
親しみやすくなるようにつくられている。

掲載されているのは
「イギリス海岸」
「楢ノ木大学士の野宿」
「グスコーブドリの伝記」
「風野又三郎」
「土神ときつね」
の5編で、有名なものとマイナーなものがうまくミックスされている。
底本は岩波文庫『童話集風の又三郎』、
新潮文庫『ポラーノの広場』『注文の多い料理店』、
ちくま文庫『宮沢賢治全集』の各点。

苛烈な環境のなかで必死に生きるブドリの物語
「グスコーブドリの伝記」では、舞台が火山の近くなので
火山活動をはじめとした地球科学(地学)の言葉が
たくさん出てくる。
物語を読み進めながら用語の解説を受けられるので、
わからないことをそのままにしなくていい。
これは気持ちが良い。

本当に、賢治作品のすべてがこういう風に読めたら
子どものころからもっと親しめただろう、と思わされる
とても良い本である。