生きものの流儀

岩波書店
日髙敏隆
2007年10月18日 第一刷発行 四六判・174頁 本体1,800円+税

日髙敏隆さんを知ったのは、研究内容よりも
文章のことが先で、「私の文章修業」という
古い本を買って読んだときだった。
文章をどうやって磨いたか、52人の著名人が
それぞれに綴る随筆集である。

丸谷才一、和田誠、北杜夫、開高健、大岡信、
ドナルド・キーン、沢木耕太郎、大岡昇平など
当然だが錚々たる文人が名を連ねるなかの、
数少ない研究者のひとりが日髙さんだった。

みな文筆家としても有名な人たちだから、
それぞれに印象的な言葉、文章を書いているが、
日髙さんの文章は簡潔で平易で、
こういう文章を書けるようでありたい、と
思ったものだった。

建築などの専門職の人や研究者には2種類いる
と個人的には日頃から感じている。
相手に伝えたいと思って伝えようとする人と、
わかる奴だけわかればいいと思って
わからないように書く(しゃべる)人と、である。
後者の人の気持ちがわからないわけではないのだが、
共感は出来ない。

なぜなのか自分でも明言できずにここまで来たが、
この本を読んだときにけっこう腑に落ちた。

伝えたい、と思う気持ちは、広く深く物事を見て、
人間に限らない他者の生き方やありようを想像し、
寄り添おうとする態度から生まれているのだろう、
ということなのである。

動物行動学の草分けで、その方面の著書・訳書も
非常に多い日髙さんだが、本書ではそういう専門分野の
知識を披露するのではなく、動物や昆虫の行動から
生き物としての人間と通ずる生き方、ありようを
じっくり見い出して、描いている。
その視野は透徹で、傲慢ではなくとても優しい。

建築設計を業とする者としてそうでありたいという
願いが、日髙さんのような伝え方、伝えたいと思う
気持ちを憧れさせたのだろう。

タイトルからは動物の科学本だと思われそうだが、
自分の生き方、ありようを見つめ直せる
素晴らしい随筆として、若い人にも勧めたい。