犯科帳 ―長崎奉行の記録―

岩波書店
森永種夫
2007年10月18日 第一刷発行 新書判・214頁 本体860円+税

私事だがもともと池波正太郎の
鬼平犯科帳は大好きで、もう30年ほど
繰り返して読んでいるぐらいなので、
犯科帳というタイトルだけでも気になった。

ところがこれが因果が逆で、
本書のタイトルを池波正太郎が気に入って
鬼平犯科帳にしたのだという。

本書は寛文六年から慶応三年、
西暦なら1666年から1867年まで、
実に200年間の長きにわたって、
幾人もの長崎奉行が書き継いできた
判決の記録である。
145冊の完本だそうで、幕末の戦火も
逃れてきちんと残っていたのは
奇跡のような好運だろう。

もとは江戸時代の古文書だが、著者が一部を
現代文に直してくれているので読みづらくはない。
200年間、長崎で発生した犯罪の、
発生から推移、どう発覚して捕らえられたか、
判決はどうなり、場合によってはその理由までも
克明に書いてある。

現代のルポルタージュでもそうだが、
犯罪ものは、世相や環境、人間のエゴや
欲望や感情が如実にあらわれて、
他人事として読むには本当に面白い。

記録であるから文体など気にせず、
克明であるだけで上手に物語っているわけでは
決してないのだが、とにもかくにも面白い。
人間という生きものは、二千年このかた
変わっていないのだろうな、とも思わされる。

時系列ではなく、密貿易、キリシタン、安政開国
といった具合に分野別で様々な時代の犯罪記録を
抜粋してある。
なにしろ原本に載っている記録は8,200件余。
全部はとても読めないが、本書に載っている
記録だけでも時系列に並べ直してみたら、
それはそれでまた面白い傾向がつかめるかもしれない。

すごい本というのは、文才によってのみ
書かれるとは限らない、という好例である。