本屋なんか好きじゃなかった

十七時退勤社
日野剛広
2023年5月21日 第1刷発行 A6判・152頁 本体1,300円+税

たいして本を読まない人生を送ってきてしまったが、
そんな自分でも思い出の本屋がいくつかある。

幼いころ、町に一つしかなかった
本以外にも文具やCDなど
いろんなものを売っていた本屋さん。

高校生のころ、学年が上がるたびに
指定教科書を買いに行った本屋さん。

上京後、生き方がわからなくなった頃に
何度も吸い込まれるように入った、
サンロードやパルコの地下の本屋さん。

特段、本も本屋も好きというわけではなかった。
ただ、本屋にいると何故か落ち着く、ということはあった。

「本屋とは決して少なくない人たちにとって、
一人で静かに佇んでいたい場所ではなかったか」

本書のこの一文に、納得した。
そして、自分が今いるこの場所もいつか
そのようになれたら、などと高望みをしている。
現状、入りにくいと言われてばかりいる
出来たばかりの小さい本屋なのに。

本屋なんか好きじゃなかった、という
タイトルの日野さんの言葉には
どこか救われるような気持ちを覚える。
いまの自分でも本屋の一員でいいかな、と思わせてくれる。

そして日野さんの文章、書評は
本屋を必要としている人たちに向けて、
寄り添っているかのような印象を受ける。
少なくとも自分にはそう感じられた。

ひとりの時間を受け入れてくれた本屋さんのように、
拠り所となる一冊になりそうな気がしている。