製本と編集者

十七時退勤社
笠井瑠美子
2022年11月20日 初版第一刷発行 A5判・108頁 本体1,200円+税

表紙にグリーンの帯が巻いてあると思ったら
その部分も印刷で、本書を作るに至った経緯を
記してあった。
こういう作りでもう掴まれてしまう。

が、書いてあることもすごい。
表紙のリード文にはいきなり問いが載っている。

「紙が一枚一万円するとして、
あなたはそれで何を作りますか?」

たぶんこれ、私も折に触れて思い出しては
考え込むことを一生続けさせられるだろう。
とんでもないことを埋め込まれてしまった。

その答えは出ないけど、本を作る仕事に携わる答えを探して、
編集者と話がしたい、と本書を企画したそうである。
インタビュー形式にはなったが経験もノウハウもない。
だけど、

人が何を学んできたかを聞くことに、もともと関心があります。

のだそうである。
大変に共感する。

単純に話を聞いてみたい相手が、どのような環境で、
どんなことに関心を持ち、学んできた末に、(中略)
仕事を選ぶに至ったのかを聞きたい。

激しく共感する。
こんなに面白い話はないのでは、と最近では思うぐらいだ。

仕事は、生活の糧を得るためのものには違いない。
だがそれだけではなかなか続けていかれない。
続けていくための力が必要なのだ。
崇高な使命とか他人に羨まれるとかではなく、
モチベートしてくれる何かが要る。

人の仕事とか、やっていることに面白みを感じると、
自分が毎日やっていることも、その向こう側が想像できて
面白くなってくる。
激しく燃えるような熱意とか
笑いが止まらないような可笑しさとは違うが、
じわじわと泡立つような面白味と、
自分に合うかどうかを探るわずかな不安。
以前、あるドラマで「みぞみぞする」という謎の形容詞が
出てきたが、ちょっと近いような気がする。

好奇心と言ってしまえばそれまでだが、
もう少し自分の内側、深いところにある謎の何か、
それこそが面白くて仕事をしている。
本書のインタビューもそういうことのように感じた。

表紙と「はじめに」の数ページ読んだだけでこれである。
これははまるなと思ったのは正しい予感だった。
同じように面白がってくれそうな人の顔が、
何人か思い浮かぶ。
わずか100ページちょっとの本に、
これだけ感情が持って行かれる。

紙の本は良いなと思うのはこういうときである。