クマムシ調査隊、南極を行く!

岩波ジュニア新書
鈴木忠
2019年6月20日 第1刷発行 新書・238頁 本体960円+税

クマムシ。
「地球最強の生物」などと呼ばれている。
たぶん15年ぐらい前、衛星に同乗して打ち上げられ、
1ヶ月ぐらい真空状態にさらされたのに生きていた、
というエピソードが最強説の初出だったはずである。

どう最強なのか。
簡単に言えば、耐久性が極端に強い、ということである。
乾眠(クリプトビオシス)という状態になると
体の代謝速度が1万分の1にまで遅くなる。
・体の代謝速度を1万分の1にまで遅くして水分消費を抑え、
極度の乾燥状態にも耐えられる。
・150℃の高温から-200℃の極低温まで幅広い温度に耐えられる。
・真空状態から75,000気圧まで幅広い気圧に耐えられる。
・ヒトの半致死量の1,000倍にもなる高線量の放射線に耐えられる。
30年間凍結された個体が解凍されたら
生きていた例もあるという。

大きいものでも1mm前後で、
ムシと名が付いても昆虫ではない。
湿ったコケの中に棲み、
水生動物に分類されるのに泳げない。
どこまでもワケのわからない生き物、クマムシ。

このクマムシは南極にもいて、ちゃんと
ナンキョククマムシという種までいる。

南極の昭和基地近くのコケから
クマムシが出てきて、殖えているという情報を
著者が聞き、ナンキョククマムシの飼育を始め、
縁があって南極に行くことになった、と
本書の序盤が始まるのだが…

なにしろ本書は、クマムシの本ではない。
内容の9割は南極調査隊の日常を描いている。
帯には
「生物学者が見た極地の自然とは?」とあって、
これが内容を正しく要約している。
南極調査の実情を描いた本、と思えば
面白いのだが、なにしろこちらは
クマムシのことが書いてあると思っているので、
中盤を過ぎるあたりでは、ちょっと呆気にとられた。

調査の細かいことよりも、調査隊の日常。
これが本書の肝で、面白いには違いないのである。

“調査隊の日常を描く”というテーマでも、
料理や食事の面から見た描かれ方が多い。
なにしろ「南極料理人」が有名になったし、
食の話題はやっぱり伝わりやすいのだ。

それに比べて本書は、科学的調査について
細かく深く語るのでもないし、
日常や風景がうまく描かれていて
食に偏らない南極への視線を与えてくれる。
だから面白い、のだが、
なんとしてもタイトルでこちらが期待したことが
あまりにもあさって方向だったために、
気持ちの立て直しが必要だった。

これから読む皆様にお伝えしておきたいのは、
本書は面白い本だということと、
クマムシのことはあまり書いてない、ということである。