観察が楽しくなる美しいイラスト自然図鑑 樹木編

創元社
V・アラジディ 著 / E・チュクリエル 絵 / 泉 恭子 訳
2017年11月20日第1版第1刷発行 B4判変型・68頁 本体1,800円+税

アメリカ、カリフォルニア州ロサンゼルスのハリウッドは
「セイヨウヒイラギの森」の意味。
映画雑誌などでときどき和訳として使う「聖林」は
「ヒイラギ」Hollyと「聖なる」Holyの誤訳が定着した。

セイヨウヒイラギは葉が尖り実が赤く、
クリスマス時期に飾りなどに使われるおなじみの植物だが、
日本に生えるヒイラギは実も紫色だし、
じつはセイヨウヒイラギとは科も属も違う全く別の植物。

ここまではたまたま知っていたが、
セイヨウヒイラギの実が人間には有毒なのは知らなかった。
ツグミにとっては食料であるらしい。

本書の葉と実と枝のアップの描写には、
ツグミも一緒に描かれている。
色合いも線もとても美しく描かれているが、
日本人が描く細密画とは、やはり細部の表現がどこか違う。

併せて樹形もきちんと描かれているのだが、
こちらは色の付かない背景とか、
生態として関連する動物とかがちょこっと足されている。
こういう表現の仕方がまた、日本の描き方と
雰囲気がちょっと違って、これがまた良い。

特にその樹形の描き方が良い。
樹を描くときは、葉の一枚一枚をきちんと描いてしまうと
どうしても線が過剰で実際の立木の印象とずれてしまうので、
うまくデフォルメしないといけない。
これがまあ、難しい。
少しでも雑になると何の樹かまったくわからなくなるのだ。

このデフォルメの仕方が、チュクリエル氏の絵は絶妙。
どの樹種のページも、立木の姿を知っている樹はもう本当に
そのもののように見えたし、知らない樹でも特性がよくわかる。
でも、繰り返しになるがデフォルメはされている。
細密画ではないので、ある意味漫画的な表現だが、
しかし写実的なのである。これは驚いた。

2023年9月に開催した「菜の辞典原画展」では
この本の他にも植物を精確・巧緻に描いた本をそろえたが、
それらを見ていると本当に自然の中にいるときの
気分をまざまざと想像できる。
写真の図鑑ではこうはいかない。

本書は100ページに満たない絵本だが、
想像を伴いながら読めば充分に時間を使える。
寝る前にじっくり眺めたりしたら
癒やされそうな本である。