いろんな いきもの かぞくのカタチ

福音館書店
澤口たまみ 文 / たしろちさと 絵
2023年11月10日初版発行 22×16cm・96頁 本体1,400円+税

動物や植物を観察するテレビ番組が昔から好きで、
実家で衛星放送が見られた頃は
海外の動物ドキュメンタリーばかり見ていた。
どれだけ見ていても飽きることがない。

そもそも質が高いのはもちろんだが、
当時から今も変わらない日本のテレビ番組の、
動物を極端に擬人化して描き、声を当ててまで
感情や行動を人間と同じものとして描く手法が
どうしても受け入れがたく嫌いで見たくなかった、
というのもある。

人間と動物はまったく違う。

例えば2023年8月、北海道・丸山動物園で
ゾウの赤ちゃんが自然分娩で生まれて話題になったが。
ゾウは、習性として生まれた直後の子ゾウを蹴飛ばす。
生まれた直後は呼吸してないので、
ショックを与えて促す、と考えられている。
これが難しい習性で、母ゾウが塩梅を学んでいないと
子ゾウが死ぬまで蹴り続けてしまうことがあるらしい。
この辺は、群れで育てば周りの母ゾウを見て
なんとなく習得するらしいが、一頭一頭の性格にもよるし
どうしようもないことだそうだ。

実際、円山動物園の母ゾウが子ゾウを蹴る姿は、
映像で見て絶句した。
人間の感覚だと一発目で完全に死んでいる強さで、
本当に蹴っ飛ばすのである。それも何度も。
ところが、子ゾウが立ち上がると母ゾウは攻撃をやめ、
立つのを介添えしてその後、授乳もした。
子ゾウに怪我はなかった。

人間になぞらえたら到底受け入れ難い行為だが、
これは単にゾウという生き物の習性なのである。
民放テレビ局によくある猫なで声を当てた語りでは
絶対に説明が付かない。
それが動物であり、生命ということだ。

遠回りになったが、本書には動物の行動を
人間の感情で説明する部分がない。
絵本だし基本的には子供向けなので、
総ルビで文字も大きいし、絵も優しい。
だが、よく読むと事実しか描いていない。

ペンギンは卵を温めるとき、まずオスが抱卵し、
メスが自分の栄養と子ペンギンに与える分の餌を
摂り貯めておく。メスが帰ってくるまで、
オスは絶食なのである。
ペンギンはそういう習性のもとに生まれている。
父親の愛ゆえに絶食しているわけではない。
そのことを本書では、「そうなのです」と
淡々と描く。これが良い。

ゾウも、虐待しているのではないのである。
子どもたちの頭や心に最初に入っていく知識は、
複雑なままではいけないし嘘はつけない。
だからこそこのぐらい客観的に、
誇張も省略もなく描いてあると安心できる。

愛を持つことと、猫っ可愛がりすることは違う。
動物や昆虫、植物、生きるものに著者が
本当に愛を注ぐからこそ、このような
描き方が出来たのだろう。
写真でなく絵で描いてあることと相まって、
動物の生きる姿とエネルギーが良く伝わる絵本である。